2019年10月8日
大型プロジェクションマッピング事業
第8回 1minute Projection Mapping in 小田原城 総評
小田原城での開催が決まり、そこから戦国時代に想いを馳せて今回は「夢」というコンペティションのテーマを掲げました。そして世界中からクリエイター達が侍かのごとく小田原城へ立ち向かい、そして天守閣、天下一の夢を目指した史上稀に見る異次元の映像合戦でした。
大会を終えた今でも、鮮やかにその素晴らしい合戦模様が思い出されますが、強烈なインパクトを残した今回の作品群には本当に目を見張るものがありました。
前回の宮崎県立美術館や過去の建物と比較しても「城」という複雑な形状の建築に対して、映像でデザインを施すという作業は、主催する我々から見ても、非常にハードルが高いものに感じられました。事実、多くの参加者はこの建物の形状を捉え、生かすことに苦労し、頭を悩ませたことでしょう。しかし世界中からそれを乗り越えて来た強者供の作品は、ファイナリストという形で残り、そして多くの観客の心を掴んで離さないものとなりました。
こうした地方都市でプロジェクションマッピングを開催すると、この表現自体を初めて目の当たりにする人も非常に多くなります。またプロジェクションマッピングを見慣れた人々は、厳しい視線で見つめ、過去を凌駕する作品との出会いを待ちわびています。今回のファイナリスト達はこうした観客、関係者それぞれの期待を大きく乗り越え、感動を引き起こしてくれました。世界中から参加してくれた「映像の侍達」にまずは深く感謝申し上げます。そして大変難しい審査でしたが、長時間にわたって粘り強く結果を吟味してくれた審査員メンバーにも感謝と敬意を表します。
グランプリ:「The Great Dreamer」Julia Shamsheieva(ウクライナ)
さてこの小田原城での激戦を制したのはJulia Shamsheievaというウクライナの若い女性クリエイターで、本大会通じて初めての女性優勝者です。昨今のプロジェクションマッピングは3DCGソフトの進歩により、その表現技術を競うような様相を呈しているのですが、その中にあって彼女の作品は3D映像技術以上にグラフィカルなアプローチで、個性的な音楽と共に強いインパクトを残しました。こうした国際コンペティションで、しかも1分台という短時間の作品がいかに観客や審査員の心を掴むのか?そこにまっすぐに挑戦している作品であり、作品完成度のみならずアプローチする姿勢が大きく評価された結果です。おそらく観客の皆さんも全部の作品を思い出した時に、一番忘れられない作品だったのではないでしょうか?
動画:https://youtu.be/IPAurmZKEIg
準グランプリ:「Hatsuyume (First Dream)」DecideKit(タイ)
次点となったタイのDecideKitは数年前から本コンペに参加してくれていますが、今まで作品とはCGのクオリティが飛躍的に上がった素晴らしい内容でした。しかも日本の「初夢(一富士二鷹三茄子)」を題材にしながら、小田原城主だった北条家の家紋を随所に施すなど、文脈的なアプローチやデザインの質としても、隙のない非常に完成度の高い作品で、観るものを魅了していました。
動画:https://youtu.be/zoccP_f_O1A
審査員特別賞:「Glitch」AVA Animation & Visual Arts(カナダ / メキシコ)
3位の審査員特別賞には、メキシコのAVA Animation & Visual Artsが受賞。完成度の高いCGと、観客の心を鷲掴みにする可愛らしいキャラクターやポップなビジュアル、そして地元小田原や箱根の寄木細工の文様、武将や盆栽、日本の街並みなどといった多様な要素を、この小田原城という難解な建物の中に見事に落とし込み、楽しく昇華させた作品でした。
動画:https://youtu.be/deJnHFQtbiE
小田原賞:「WAYAK」DUX ANIMATION STUDIO(メキシコ)
小田原賞はメキシコのDUX ANIMATION STUDIOによる作品で、南米の強烈なビジュアルを小田原城に融合させ、そのビビットな色彩とデザインが多くの人を魅了しました。WAYAKという彼らの言葉で夢を表したタイトルでしたが、小田原から地球の反対側へのまさに夢の旅へと誘ってくれたような作品となりました。
動画:https://youtu.be/RvFFtY0mFZI
オーディエンス賞:「The Past and Future」RESORB(ドイツ)
オーディエンス賞を獲得したのはRESORBというドイツのチームで、美しいビジュアルと斬新なアイデアで多くの人々を魅了し獲得しました。天守閣の下部を城の足として描き、城が次元を超えて様々な世界を旅をするというもので、非常に面白いアプローチをしていました。また各シーンのCGのクオリティも非常に高く、プロジェクションマッピングの特質や面白さをとてもうまく取り入れており、審査員からも高い評価を得ていました。
動画:https://youtu.be/cm5zbNa4DJA
特別賞:「Odawara’s legacy」Los Romeras(スペイン)
最後に審査員達からの推薦で追加の審査員特別賞に輝いたのが、スペインのLos Romerasによる作品です。まるで戦国時代にタイムスリップしたかのような、臨場感のあるアクションを描き出した大作でした。事実では小田原城が物理的に攻められたことがなく、無血開城の城であることや、戦や血が流れるというバイオレンスな表現に疑問視の声もありましたが、1つのエンターテイメント作品としてのクオリティに高い評価が集まり受賞となりました。
動画:https://youtu.be/LIkLLyhdwc0
その他にも当落線上にはたくさんの候補があがっていましたが、最終的な浮沈を左右したのはその作品自体の存在感や押し出す強さだったように感じます。こうしたバリエーションの広い作品群から、審査員が取捨選択していくプロセスにおいて、どんなポイントで比較するか?で全く結果は異なってきてしまいます。雑多な方向性の作品同士が競う場合には、やはり映像の質だけではなく、他の作品には無いような強い個性や主張、応援したくなるアイデアや挑戦的な態度が重要になってきます。これらを比較論点としていかに審査員の目に止めて考えさせるか?これはプロジェクションマッピングに限らず、モノを創る者の態度として正しく、そしてその感受性と経験を持つ審査員はそこに反応を示してくれています。
最後にこの大会は、参加するクリエイター達だけのものではなく、開催地の市民、主催関係者や多くのスタッフ、そしてご来場いただいた観客のみなさまの暖かい応援によって支えられていることにも触れさせて下さい。この大会はすでに八年の歳月を数え、世界でも有数の大会となっていますが、これは皆様からの厳しくも暖かい評価やご支援を受けて成長してきた結果でもあります。10回目を数えるまでにはまだまだ多くの壁や課題が残されていますが、どうか今後も一緒にこの大会を楽しみながら、支えていただけましたら幸いです。
2019年10月2日
1minute Projection Mapping Competition 企画総合プロデューサー
石多 未知行